﻿イブのコレクション
EVE’s collection
ISBN 978-1-4523-8972-1
Published by Hello Ken1 at Smashwords
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「イブのコレクション」   

　祐二はカレンダーを数えている。涼子と知り合った日から今日まで、三ヶ月がちょうど経っている。カレンダーのページを進めて残りの日数を数える。あと一月だ。一月で二人ではじめてのクリスマスを迎えることになる。カレンダーには涼子の手で赤いハートマークが付けられている。いつつけたのだろう。マンションのベランダから見える歩道のポプラ並木が黄色く色付きはじめた頃には、この卓上カレンダーは祐二のパソコンの右となりに置かれていた。夏前には存在しなかったカレンダーだ。いつか涼子が置いていったのだと思う。それがいつなのか は思い出せないけれど。でも、涼子が寂しげに言った言葉は祐二の胸に残っていた。 「祐二は一緒にいてくれるよね」 
「今年からはずっと一緒だよ、来年もその次もさ」 
「みんな、そう言ってたのよ」 　この言葉はあえて聞こえない振りをした。祐二は過去の事は詮索してもしかたない事だと考えていたからだ。 
「クリスマスはどこかで食事でもするかい」 「一緒に私の部屋にいましょ、ね。いてくれるよね」 　夏以来、寂しげな顔つきになる回数が増えているのは気付いていた。何もそんなに神経質に考えなくてもいいのに、と時には祐二も気疲れしてしまうほどだった。
「大丈夫だよ」
　そして、これが今月のはじめだった

　パソコンの電源を入れる。低い小さな回転音とともにディスプレィに初期設定 の文字がスクロールして行く。じっと見つめていると画面に絵が現れる。 ーユージ、イーメール、ｅ−ｍａｉｌ 　パソコンが祐二に電子メールの到着分がある事を知らせてくれる。

ｍｏｅ：
祐二さん、こんにちは。今日は何をしていましたか。萌は料理教室のおさらいをしていたんですよ。正直に教室の分量通り作ったら四人分だったんです。一人暮しだとこんなとき余っちゃって困りものです。冷凍にするにも冷蔵庫は小さい上に冷凍庫はいっぱいだし。祐二さんは食事はどうされているんですか。はは、深い意味はありませんので。そうですよね、祐二さんは彼女さんが作られるから食事の心配はありませんよね。では、また。
　 　祐二は萌からの電子メールを読むたびに、行間から感じ取れる明るさが少しでも涼子にあればいいのにと、思うことがあった。比べることはよくない。それぞれの人格があるのだから。それにこうして電子メールを一年近くやり取りしている萌でも会ってみるとぜんぜん違う人格かもしれない。もっともっと暗くて涼子のほうが断然明るいのかもしれない。涼子は単にクリスマスを一人で過ごしすぎたのだ。一度一緒に過ごしてしまえば、夏のあの頃の明るさに戻るに違いない。 　
　祐二は萌宛の返信のメールを書き出した。

「ねぇ、ちょと暗い女を演じすぎてるかなぁ」 「さぁ、どうだろう。程々にいやがられない程度にしとけば今年も大丈夫なんじゃないか」 「どの程度？」　 　洗面台の鏡に映ったその茶髪の男は涼子の問いかけに口元で微笑むだけだった。鏡には不自然な脱色を思わせる茶色の単髪と漆黒の瞳を持つ切れ長な目のみが中世の絵画よろしく浮かび映っていた。
「あなたも少しは考えてよ。二人のためなんだから」　 　茶髪の男は少し考えると、出し惜しみするかのように口を開いた。その内容に涼子は耳を傾け茶髪の男の目を真剣に見つめていた。 「そうなんだ、じゃあ、少し明るく振る舞う事にするわ」

ｍｏｅ：
祐二さん、今日、不思議な人からメールをいただきました。返事を書いていいものかどうかちょっと迷っていますので、相談に乗ってください。ブラウンヘアさんと言うニックネームを使う方からです。どうも男性っぽいのですが、どうして萌のメールアドレスを知ったかもはっきりしません。祐二さんはどう思われます？　確かに祐二さんと萌も偶然のメールの送信間違いがやりとりのはじめですけれど、このブラウンヘアさんは間違いなく萌宛にメールを送ってきているのです。アドバイスをお願いしますね。
　 　グラスのリキュールの中に萌の字がぎっしりと溶けこんでいる、いや、押し込まれているような気がしていた。個々の字はばらばらに押し込まれてはいたが、それが余計、萌の不安な気持ちを表しているように思えた。グラスを前に祐二はそんなことを考えていた。
「祐二、今日は静かだね。私の事、嫌いになったの」 「うぅん、そんなことないよ。ちょっと気になることがあってさ」 「クリスマスの事、私、心配しすぎかなぁ」 「それとは別の事だよ。クリスマスはクリスマス。安心しといていいんだ」 「ねぇ、祐二。一緒にいるのは心も一緒ではじめて一緒って言うんだよ。今みたいなのは、ぜんぜん、違うからね。私の目を見て、私の体を見て、私の気持ちを見て。そして、私の心を包んでよ」　 　涼子の気持ちに押されぎみの祐二は、つい、視線をグラスに戻した。涼子の気持ちが強く重く感じられ、グラスのばらばらの文字に救いを求めた。文字達はリキュールの中で丸っぽく絡み合っている。それが萌の性格なのか。会った事がなくても、なぜか萌を想像する事ができた。
「どうしてグラスに目を移すの。私はここよ、祐二。気になることも忘れてよ」 「そうだね」　 　祐二は出会った頃の涼子を思いだそうとしていた。出会った頃の涼子を思う事で、今の涼子の強すぎる愛情から開放されようとしていた。強すぎる愛情、祐二はそう受け止めていた。確かにひとつの強い愛情には変わりはないのだが。

ｍｏｅ：
またブラウンヘアさんからメールが届きました。近況報告だそうです。萌はまだ返事を出していないのに、お構いなしです。でも、人の部屋に土足であがってくるような人ではなさそうです。文章では伝わりにくい部分を一生懸命誤解のないように書いていらっしゃいます。どうでしょう、そろそろ、萌も返事を書いたほうがいいのかなぁ。祐二さんならどうされます。

「涼子、ひとつだけ聞いていいかい」
「しょうがない、心配事なんでしょ」 「見ず知らずの男性からメール、いや、電話をいきなりもらったらどうする」 　涼子はひとつ、ため息をついた。
「そういう女性がお友達にいるわけ」
「そう、怒るなよ。どうしてもこれだけ」 「そんな心配事だったら、他の人に聞いたらどう。それとも私を置いてその女性の元に駆けつけますか」
「だからさぁ」やっぱり言わなきゃよかったかな。 「私だったら電話を切ります。何回かかってきても電話を切ります」 「何回目かでさぁ、しょうがない少しばかり話してあげよう、なんて思わない？」 「思って欲しいの？そうして欲しいの？そしてずるずるとその人と仲良くなれって言うの。会った事もないその人と。そんな事すすめるのって馬鹿にしてない？」 「いや、僕も相談を受けた女性と会った事もないんだけどね」 「じゃあ、ほっとけばいいじゃない。その人の好きにさせればいいでしょ。何も自分の彼女を目の前にしてそんなことで悩まなくてもいいじゃない。それとも は祐二の彼女じゃないの。祐二の彼女は会った事もないその女性で、そうしたらここにいる私はいったい、ねぇ、いったい」 
　立ち上がった涼子の左腕をつかむ祐二に、涼子は真っ赤な目で振り向いた。 「お手洗いに行くだけです。すぐ、戻りますから」 　それでも祐二にとってグラスの中では萌の文字が揺れていた。

「あなた、祐二の友達に何かしたでしょ」 　バーのトイレの電球は薄暗く、その中に茶髪の男は浮かんでいた。 「どうかして欲しいのかい」　 　男の口元に冷たい笑みが現れる。低めの暖房が効いているこのトイレが心なしか一、二度寒くなったようだ。 「心配するな。祐二とその友達のやり取りを興味本意で覗いているだけだ」 「それだけだと、いいんだけどさ。私よりそっちに気持ちが行きはじめているみたいでね。当日それだと困るじゃない」
 「じゃあ、もっともっと魅力的に頑張るんだな」　 　トイレの照明がふっと明るくなり、その明るさにかき消されるように茶髪の男は宙に溶けていった。客の一人がトイレに入ってきたのだった。涼子は何食わぬ顔で化粧台の鏡を使っている。

　カウンターでは、祐二がグラスを覗きこんでいる。鮮やかな赤の口紅を唇に携え、意を決したように背筋をしゃんと伸ばし店内に小気味よくハイヒールを響かせ、涼子は祐二の右後ろに立った。振り返る祐二、その瞳を見つめる涼子。涼子の手はカウンターのグラスに伸び、祐二は鮮やかな口紅に目を奪われていた。グラスを祐二の目の前にかざすと、一瞬の事だった、萌の言葉が詰まっているリキュールは涼子の唇に触れたと同時に、スローモーションで床に落ちていった。
「えっ」　 　祐二の次の言葉を飲み込むように、涼子の鮮やかな唇は周りをはばかる事なく祐二を包みこんだ。その舌使いはカウンターに座っていた祐二を立ち上がらせ、甘い香りの中で二人は溶け合った。それはごく自然に映り、周りの客も誰一人見つめるわけでもなく、店内の雰囲気に同化していた。ただ足元に広がったリキュールは何故か祐二の靴の周りに集まりはじめていた。

ｍｏｅ：
祐二さんが私に言わんとしていることが見えません。以前だったら行間から気持ちを読み取れたのに。どうしたんでしょう。何となく祐二さんが揺れているように感じれます。祐二さん、目の前にいる彼女を大切にしないとだめですよ。私達はメール友達。ただ、祐二さんの幸せは私の幸せでもあるんです。そのくらい祐二さんの事は理解しているつもり。面と向かって話すより気持ちを伝えやすいことって結構ありますよね。あっそうそう、ブラウンヘアさんからは今だにメールが届いています、報告まで。
　 　涼子の寝息を後ろに感じながら、祐二は缶ビール片手にパソコンに向かっている。時間は深夜３時半を回ろうとしている。この部屋には緩い暖房が効いている。涼子の泊まる夜は常にそう、生まれたままの姿でいても差し支えないようにしている。それでもやはり冷えた缶ビールは少しこたえる。街灯の明かりのおかげで真っ暗とまではいかないこの部屋にぼんやりと祐二の顔が浮かんでいる。画面の明るさが余計そうさせているのか。暖房と涼子の激しさのせいで喉がからからだ。多少寒く感じても、ビールは本当に張り付きそうな喉を救っくいれる。そしてその冷たさは祐二の頭を冴えさせるのに一役を買っている。 ーこういうのを揺れているって言うんだろうな。 　祐二の指がメールの文字をスクロールさせる。何回読んでも落ち着かない。自分は何をやっているのだろう。夏過ぎから関係を持っている心配症の女性が僕の部屋で寝息を立てている。とっても明るくて夏にぴったりだと、太陽の下がこの子の生れ故郷だと、それ以外の表現はないほど生き生きとしていた。いつからだろう、そう、クリスマスをどちらからか意識しはじめてからだろう。寂しい表情を持つようになり、自分だけを見つめるようにと怒り出し、激しく妖艶な裸 体で僕の側にいる。 ー萌は祝福しますよ。きっとその女性は祐二さんと相性がいいんですよ。祐二さんは思いのままストレートに誘っちゃいなさい。大丈夫、うまく行くから。 本名不明、年齢不祥の萌は僕をはげましてくれた。そして今では涼子と一緒に朝を迎える関係になっている。反対に、萌の相談事に自分は乗ってあげた事があるのか？祐二は自分でも不安になった。あるのか？いやないだろう、ないに違いない。それでも今だにメールのやり取りが続いている。なぜだ。 ー簡単な事じゃないか、二人ともいつのまにかに惹かれはじめてるんだよ。 　そうかもしれない。でもそれは意識のしすぎともとれるだろう。
ーそんなことはないね。　 　えっ、誰だ。僕に話し掛けてくるのは。何だ。えっ。暗がりでＯＡデスクに膝をぶつける。缶ビールが大きく揺れる。その時、萌のメールを映し出していた ソコンの画面が一瞬白くなり、部屋中を明るく照らしたかと思うと息を吸い込むように電源が落ちた。最近萌のメールを読んでいると何故かしらよく起きる現象だ。だから普段なら全然気にもしなかっただろう。だが、今夜は違う。画面が白くなった最後の瞬間、その白い中に人の瞳を見た気がした。白い画面に漆黒の瞳、それが自分に話し掛けていた。電源が落ちるその瞬間まで。ー惹かれはじめているんだよ。簡単な事さ。
　 　祐二は倒れかかった缶ビールを左手で押さえ、強く掴みつづけていた。画面に明るさはなく、街灯の明かりだけが部屋を、祐二を包みこむ。
「こんな時間にビール飲んでるの」　 　寝ぼけ声の涼子が甘い吐息で聞いてくる。画面を見つめる祐二にその言葉は聞こえない。祐二の頭の中ではスローモーションでさっきの一瞬の出来事が繰り返されていた。男の声が聞こえる。画面が揺れる。画面が乱れる。画面が白く発光する。まぶしい。目が痛い。自分を見つめる瞳が見える。瞳は奥の見えない闇のように深く黒い。いや、それ以上。瞳はほくそえんでいる。男の声が聞こえる。画面が落ちる。静寂。ぼんやりとした風景。薄暗い僕の部屋。誰かが僕を呼んでいる。甘い響き。でも素直に振り向けない。体が心の躊躇を感じている。振り向くな。振り向くな。温かい感情。感じない。目の前に届いていた温かい感情。この瞬間は届かない。溶けた水飴のような響き、甘すぎる声。 「ゆうじ、祐二、こっちへ来てよ、一人にしないで、ねぇ」　 涼子の滑るような肌が祐二のうなじに触れてくる。ひんやりとした感触、体温はどこだ。固い乳首が背中に触れる。全身を祐二に預ける涼子。身体全体の体温が低い、冷たい。 「爬虫類みたいだな」 「そうかもね。祐二がいなければ冷たくなるし、側にいてくれれば温かく、熱くもなれるわ」
「温めてあげるよ」
「いつまでも？」　 　祐二はその問いには答えず、涼子のひんやりとした首筋から体温を与えはじめた。同時に画面の落ちたはずのパソコンに静かに電源が入り、薄くらい部屋にぼんやりと浮かぶ柔らかくもあり掴み所のない空間を作っていた。
ーご満足ですか。
　　空間から男の声が響く。
ーまだ安心できないわよ、心はここにはなさそうだし。
ー心配症だな。
ー毎年の私のコレクションを続けたいだけよ。
ーそう、では陰ながら応援するとしよう。 ーそんな事言いながらも、結構、彼女の事を気に入ってたりしてね。 ーそして俺のコレクションの一つになってもらったりして。
ーコレクション、始めるの？ ーおまえがあんまり楽しそうに毎年収拾しているからさ、今年はちょっとやって見ようかと思っているのさ。
ーそうとう気に入ってるんだ、あの子の事。 　男は目を伏せるとパソコンの画面から消えていった。　 　祐二が涼子に体温を与え終えようとする瞬間、涼子は祐二の腰にきつく両足を回し両腕で引き寄せ、耳元でつぶやいた。
「祐二は私のものよね、誰にも渡さないわ」

ｍｏｅ： 祐二さん、こんにちは。彼女さんとは仲良くやっていますか。私は相変わらず一人ですが、返事も出していないのにブラウンヘアさんから時たまメールが届きます。そして、昨日ついに実際に会いたいとのメールをいただきました。なんと私の事を何度も街で見かけているそうです。だから、だそうです、いきなりのメールも。私、会ってみようかと思いはじめました。同じ市内だから待ち合わせるのも簡単だしね。そうだ、学校の友人から恐くもあり興味深くもある現代の魔女の話を聞きました。祐二さんが浮気をしないように今度この話を聞かせてあげますね、今日はもう遅いので寝ます。おやすみなさい。 

　涼子のいない部屋でひとり祐二は布団にくるまったまま天井を見つめていた。目が覚めたら涼子はいなかった。書き置きのメモもなければ、部屋の空気自体に涼子の香りさえ残っていないように感じた。言うなれば夕べは一人で夢を見ていた、そんな感じがした。ベッドに残り香もない、祐二は鼻をシーツに押し付けて匂いを嗅いでみた。髪の毛一本落ちていない。祐二は寝返りをうちながら涼子が何か残していないかときょろきょろしてみたが、肌寒い部屋には起きていく気はしなかった。肌寒い、そう、祐二は身に何もまとっていなかった。やはり、涼子と夕べ互いを確かめあったのは間違いない。 
ー祐二は私のものよね、誰にも渡さないわ 　憶えている涼子の言葉、この後の記憶がないのだ。祐二はまた寝返りをうった。その祐二の目に映ったのは電源の入っているパソコンの画面、画面が落ちた記憶もあるのだが、それよりも、祐二の目をひいたのは画面にポップアップしている萌からのメールだった。掛け布団を体に巻き付け、ベッドを一歩出る。 
ー祐二は私のものよね、誰にも渡さないわ
　涼子の声が耳元で響いた気がした。 
ー惹かれはじめているんだよ。簡単な事さ。 　見知らぬ男の声も響く。祐二はパソコンをベッドサイドに引き寄せた。 

　朝早く自分のマンションに戻った涼子はアルバムを開いていた。アルバムのページをめくるたびに様々な思い出が涼子の脳裏によみがえった。あの人との思い出、この人とのひととき、そうそう、去年はこの彼だったんだ。涼子は思い出とともにアルバムに貼られてあるポストカードを優しく指でなぞっている。涼子は知らず知らずのうちに口元がほころんでいった。彼らの優しさを、思い出を振り返って感傷にひたっているのではない、涼子はそこにまさにそこに彼らを囲っている事に対して満足していた。アルバムに貼られているポストカード、数十枚、いや全部数え上げると百枚単位になるのかもしれない、古いものは写真ではなくドローイングのものもある、それらすべてのポストカードは大切にアルバムに貼られている。アルバムで保存されている。 
ー随分とコレクションもたまったものだな。 　一枚のポストカードが茶髪の男に姿を変えた。 ー止めてよ、そこから現れるのは。その彼もとっても私のお気に入りなのよ。 ーよいしょと、いわれなくても出ますよ。 　男はアルバムを開いている涼子と３メートルほど距離をおいた部屋の角に現れた。 ーその赤い服に赤い帽子をかぶらされた彼らは元気なのかい。 ー私のサンタさん達と呼んでよ。気が利かないんだから。元気よ。 　涼子はさっと目を落とすと、これ以上男に見られるのももったいないといった態度で、アルバムを隠すように閉じた。 
ーそれはそうとあなたは彼女を何のコレクションにするの。 ーまだ、決めてないさ。久しぶりのコレクションだからな。 　男は既に決めているかのような口調だった、涼子にはそう受け取れた。 ークリスマスイブの夜、彼女と会う事になりそうだぜ。 　
　男は一歩涼子に近づいた。 ーそちらのためにもなるんだぜ。惹かれはじめている女性がそれなりに誰かとすごしたいと望んでいる夜に、他の男性とすごすんだからさ。 ー諦めて、私のところにとどまるしかないと、随分私も安く見られてるじゃない。 ーそこまでは言ってないけど、何等かの足しにはなるだろう。 　男はそう言うと一気に涼子との距離をつめた。毅然と涼子を見下ろす男、涼子は男の膝に抱きついた。 ーねぇ、コレクションが全然足りない、そんな気がするの。何枚溜めたら私はこの世界に留まれるのかしら。 　
　涼子のあごを両手で抱え込んで、覗きこむようにして男は言った。 ー欲望は枯れる事はないだろう。コレクションはずっと必要なのさ。 　心配そうに眉を寄せる男の唇に涼子は激しくむしゃぶりついた。 

ｍｏｅ： ついにデートになりそうです。意を決して返事を書いちゃう事にしました。ブラウンヘアさんと会うんです、それもイブの夜に。小さい頃からの夢だったの、おおげさかもしれないけどね、自分を想ってくれる男性と一緒にイブの食事をするのが。つつましい夢でしょ。まだまだおのろけとまではいかないでしょうけど、そうなってもいいような気がします。何でだろう。不思議ですね。こんな話、つまんないですよね。では、この前の続きで現代の魔女の話をかいつまんでしましょう。男性諸氏にはちと恐い話かもしれませんね、祐二さんもそうなりませんように。恋する女性の想いが込められているんだと思いますよ、この話にはね、、、、 

　祐二は萌のメールを掴み所のない気持ちで読んでいた。いったい彼女は誰と会うんだ、見ず知らずの男だぞ。焦燥は増すばかりである。どうして僕とじゃないんだ。イブの夜は僕と過ごせばいいじゃないか。祐二は両手がしびれ、もやもやで膨らむ胸の中に今まで思いもよらなかった感情が言葉となって現れ出てきた事に驚いた。 
ーイブの夜は、 　確かな感情なのだろうか、見ず知らずの男に嫉妬しているだけだろうか、萌とは自分の方が先にメールのやり取りをしているのだと。感情に確かなものが本当にあるのか。あるとすれば今のこの想いは萌に惹かれている事になる。惹かれている事に気付くのを避けていたのかもしれない。確かな感情というものがないにしても、一時的な感情はあるだろう、一時的であれ、今、自分が萌に惹かれているのには間違いない。 
ーイブの夜は、 　祐二はもう一度自分の気持ちを整理しようと努めた。自分には涼子がいる。それは判っている。萌には声をかけてくれる男性ができた。それは萌にとってどちらかといえばいいことだろう、彼女がその男性と会って決めればいい、付き合いを始めるのもそうしないのも、彼女の意志だろう。それも判っている。萌と自分、接点はメール、それで育んできた感情はあっても、男女間の愛情とまで行っていない。それが急にどうしたんだ。 　祐二は萌に対して返事のメールをキーボードに打ちはじめた。 

　祐二が萌への自分の感情を認め、涼子が祐二を手放すまいと思っているころ、茶髪の男は深く静かな空間に身を置いて考えを巡らせていた。男の周りは暗くひんやりとしている。物音一つ聞こえてこない。上下左右を見回しても手の届く事のない触れる事のできない闇で包まれている。ここが男と涼子の起源の地なのだろう、男は安住の表情でたたずんでいる。耳を澄ます。まだ何も聞こえない。何かを考えているのか、体を休めているのか、まぶたを閉じたまま微動だにしない。 ーもう涼子はこの世界には戻ってこないだろう。いや、これないのかもしれない。 　男はまぶたの裏でぼんやりと思った。闇以外の艶に触れてみたいという願望は仲間はみんな持っていた。一人立ち上がり、一人艶に触れに行き、そして数人がこの世界に戻ってきた。しかしその数人も一度味わった艶を捨てられず、再び艶の世界へ旅立った。男は艶に疲れて闇に留まっている数少ないうちの一人だった。茶色の髪の毛は艶に溺れていた頃のなごりだ。艶は男や涼子達仲間の体力を必要以上に消耗させる。闇以外を知らない彼らの抵抗力は極端に消耗する。艶の世界へ初めの頃足を踏みいれたかつての仲間達の変貌振りを見て闇に留まっていた誰もがそう思った。消耗を止めなければ、抵抗力をもっと増さなければ、艶に押しつぶされてしまう。その頃からコレクションが始まった。身体に変調を感じたらコレクションを体内に取り込む。必要なコレクションの量はその時その場で一定しない。 ーいい男をね、アルバムに貼ってコレクションにする事にしたの。 　コレクションの方法はさまざまだ。涼子は闇を出る前に男にそうささやいた。艶の世界は疲れるだけだぜ、男は首を小さく横に振りながら思った、経験しなけ れば気が済まないだろう。 　当初、涼子の闇の魅力は艶の世界の男達を虜にしていった。コレクションは苦もなくたまり、涼子の艶の世界の生活を長引かせていった。 ーあなたももう一度、こっちの世界にくればいいのに。 　涼子が艶の世界の事をこっちの世界と言うようになったのはいつ頃からだろうか、この時男は涼子は艶の世界で消滅するだろうと感じた。 ーううん、消滅なんてしないわよ。コレクションし続けるんだから。 　男には闇の世界を出ていった頃の魅力が涼子から薄れているのがはっきりと判った。多分涼子は闇の世界に戻ってくる力も残っていないだろう、生存を維持するだけで涼子には精一杯、男には感じ取れた。これ以上仲間が減るのは避けなければならない、どの世界にいようとも仲間である事には違いない、そう思いはじめた頃男は闇の世界と艶の世界を行き来するようになった。男にとってもかなりの負担になってきている。男は自分にも再びコレクションの必要が生じたのを実感として認識した。艶の世界を乱す事は同時に闇の世界をも乱す事だ、男はコレクションを避けたかった。しかし男の体力はかなりきわどい線に来ている事を物語っていた、茶色の髪はいつしか赤みを帯びはじめふたつの世界の往来にも以前以上の集中力を要するようになっていた。 　じっと目をつむり精神を統一していた男の右肩に一陣の風、いやそこまではいかない、微妙な空気の渦が起こった。その辺りの闇が薄らいでいる。男は左手を開き渦をゆっくりと包みこむ。薄れた闇は一片も指の間から漏れる事なく、むしろ吸い込まれるように男の掌に移っていった。静かに切れ長の目を薄く開く男。男の口元に冷たい笑みが宿った。掌の闇は周りの闇に混ざる事なく、よく見ると薄いなりにも鮮やかな虹艶に渦巻いてした。どこから紛れんできたのか、どこからであれ虹艶の渦は引き返す場所を失っていた。 ーこの子はコレクションになってもらおう。 　
　男は静かにつぶやいた。 

　萌からのメールを最後まで目を通さずに祐二は返事を送ってしまった。メールを送信し終わっても、何度となく自分の文章に目を通していた。送ってしまったのだからどうしようもないものなのに、もう一度読み返す自分が何となく情けなかった。自分が慌てている、慌てふためいている、あせっている、そんな思いが萌に見透かされなければいいなと思いながら祐二はパソコンを閉じた。 
ー涼子のマンションには３時くらいに行けばいいだろう。 　祐二はイブの日、午前中に萌と電話で話し、午後過ぎに涼子に会おうと考えていた。萌の住まいも判らない、どんなに遠くても会いに行きたいところだが、涼子の事も放っておけない、近ければそれからでも会えるかもしれない、遠ければそれなりに考えればいい、今更、ブラウンヘアなる男性と会うなとも言えない、言ったところで何と思われるだろう。ただ一目会いたくなった、生の声を感じたくなった、それが正直な祐二の心境だった。涼子とは夕方から一緒にいて過ごせばいい、祐二は次第に姑息になって行く自分を後ろめたく感じながらも萌に会いたいという炎を消す事はできなかった。 
「祐二？」 　祐二は薄っすらと汗ばむ左手に受話器を持ち、できるだけ明るい声で話しかけた。それでも涼子は突然の祐二からの電話に戸惑いを隠せないでいた。祐二は涼子の反応に神経を集中し、余計な詮索をされないように一言一句言葉を選んだ。間違いなく完璧にやり通したつもりだった。 
「イブとクリスマス当日はずっと私と一緒にいてくれるって言ったじゃない」 　涼子は甘える泣きそうな声で祐二に訴えた。 「今年からは寂しい思いはしなくてもいいって言ったじゃない、一緒に部屋にいてくれるって言ったじゃない」 
ーあなたは私のコレクションになるんだからね、逃がすもんですか。 　涼子のか細い声に祐二は懸命に説明した。説明して説明のつく内容ではなかった。そんな事は祐二本人がよく判っていたし、それよりも涼子には祐二の考えが手に取るように読めていた。すべては茶髪の男からの情報が入っていた。 ーあいつの言っていた女の子と会うつもりなんだわ。それもイブの日に。コレクションに取り込むには時間がかかるのよ。 　男が感じていた事を涼子も薄々気づきはじめていた。闇の力が相当弱っている、艶の世界の人間を自分のコレクションに加えるのに当時は甘い言葉と包容ととろけるようなくちづけで十分だった。それがここ２，３年、濡れる体を開き与えてもコレクションとはならなくなっていた。自分の雑念も排除し、相手の心も自分に向かっていないと闇の力は効力を発揮しなくなっていた。自分を維持するためにも祐二を丸々一日拘束しなければいけなくなっていた、それほどまで涼子の力の低下ははっきりしていた。 「午前中に一緒に買い物に行くのよ、祐二と一緒に食材を選ぶの。それを祐二の目の前で私が料理するんだから。誰のためでもない、祐二のために私が一生懸命クリスマスの食事を作るんだから」 ーそれを食べ終えて私の身体を求めるころにはあなたはコレクションと化すのよ。私を維持するためのコレクション。 　祐二の懸命の工作にも涼子は当然うなずこうとはしなかった。しゃくりあげる涙声、祐二は次第に涼子の存在を疎ましく感じはじめた。行かないとは言っていない、一緒に過ごさないとも言っていない、夕方からでどうだと提案しているだけだ、泣くほどの事じゃない、こんな湿っぽいところが、物分かりの悪い性格がうざったいんだ、祐二は自分の都合だけで涼子の言葉を聞きはじめた。涙声の涼子は受話器の向こうで窓ガラスに姿を映した茶髪の男を睨みかえしていた。 「午前中に起きれないんだったら、私が起こしに行ってあげる。外で何か買物が必要でその時に私がじゃまだったら、ちょっと時間は空けてあげる。何でも言う 事は聞いてあげるから、朝から一緒にいよう、ねっ、一緒にいてよ」 　祐二は意識的にため息をつくと静かに受話器を置いた。汗でべっとりとなった受話器を眺めながら祐二は自己嫌悪の念にかられていた。 ーこんなはずじゃない、そうじゃない、涼子の事は好きだ、ただ、萌の事も気になるだけなんだ、一目会えば一言言葉を交わせばきっと気が済むはずなんだ。 　確信の無い危うい言葉を祐二は自分に向かって言い聞かせた。 

ー慌ててるじゃないか。 
ーあなたのやった事が裏目に出ているのよ、女の子の事。 　涼子は受話器を叩きつけるように戻した。目は怒りに震えている。 ーコレクションができなくなったらどうなると思っているの。私の抵抗力はかなり薄くなってきているのよ。 　
　唇が心細さで震え始める。 ーあなたはあの世界へ戻れるからいいわ。私にはその力も残っているかどうか不安なのよ。 　茶髪の男は何とって慰めていいのか判らなかった。ただ、単にコレクションを肯定はできない自分を再び認識した。 
ー自分から押し掛けるしかないんじゃないか。 　
　ノイズの入った声だった。 
ーえっ、何て言ったの。聞き取りにくいわ。 
ー待ってても仕方がないと思うぜ。 　
　ノイズの方が大きかった。 
ーあなたどうしたの、一体。 　涼子が落ち着いて窓ガラスを見ると、男の顔にもノイズが大きく入っている。そのノイズの入った顔でさえ、男の表情が険しく見慣れた茶色の短髪がかなりの濃度で赤く変化しているのが見て取れた。 
ー艶に押されはじめた。 　
　男の声のその部分だけがどうにか聞き取れた。 ー艶に？、、、あなた、自分のコレクションのストックは？ストックはどうしたの？ 　ノイズのかかった顔で微笑んだ後、男は首をゆっくりと横に振った。それが窓ガラスに映る最後の姿だった。 ー大丈夫だ、俺はイブの日に女の子をコレクションにするから、おまえは安心して自分のコレクションの事だけを考えろ。自分の事を考えろ。 　涼子の耳元で消えゆく声が線を引くように聞こえて消えた。 

　茶髪の男は闇の中で膝を抱え息を殺して、抵抗力の回復をじっと待っていた。こんな状態で仲間に見つかれば、いかに仲間とはいえ残っている僅かな抵抗力をも吸い取られてしまう。この程度の抵抗力のものは救うに値しない、それよりも吸い取って自分の抵抗力を高める材料にしか成り得ない。それほどまでに男の抵抗力は落ちていた。へたをすると闇の世界で自分を維持できるのかすら自信がなかった。 ーせめて今一度艶の世界へ行かなくては。祐二が萌と会えないように、会ったとしても萌の元に走らないようにしなくては。そうしなくては涼子の抵抗力を高める材料がなくなってしまう。 　男の髪はすでに茶色とは言いがたく、燃えるような赤に変化しきっていた。一筋の明かりもない漆黒の闇の中にあっても、艶の力に押されて変化した燃えるような赤は抵抗力を失った男の存在を闇の中で浮き彫りにしていた。闇の中に浮かぶやわらかな赤、それが現在の男のすべてだった。切れるような殺気もなく、かといって存在を隠せているわけでもない。男はただ一刻も早い回復を念じて全神経を集中していた。自分の世界での抵抗力、そして艶の世界への移動、艶の世界での維持、男は自分の存在が生まれたばかりの羊の子供のように闇全体から見られているのにも気付かなかった。 　男は僅かに震えはじめていた。仲間の餌食になる前に、闇自体に同化してしまうのではないかと。涼子の事を考えた。あいつはもう戻れない。せめて艶の世界で維持させてやらないと、連れ戻すのが少し遅れたばかりに、あいつはかなりなんてものじゃなくここの所如実に抵抗力が落ちている。祐二を間違いなくコレクションに加えさせるんだ。そのためにもあの女の子は自分のコレクションにしなくては。あの子だけでは自分は維持できまい。だが涼子は違う。祐二をコレクションに加える事によってかなりの抵抗力を手に入れる事ができるはずだ。
  男はその可能性に微笑んだ。 　それが男の最期だった。燃える赤は闇に舞い、闇に吸い込まれた。首をなくした男の体は闇に溶け、その周りには艶の世界への抵抗力をつけようとしている数名の仲間が立っていた。
  闇はまた闇の中へと消えていった。 

「祐二、おはようっ」 　涼子は男に言われた通り自分から祐二を拘束しに出向いた。茶髪の男からの連絡は途絶えた、でもたぶん、女の子の詰めをやっているんだ、あいつも自分の維持で大変なんだから、自分の事は自分でやらなくては、涼子は祐二のマンションの呼び鈴を押し続けた。 「ドア開けてくれないかと思っちゃった。この前急に電話切られたから」 　祐二は頭を振りながらそれでもドアを開けた。 
「どうしたの、こんな朝早くから」 
「イブだよ。用意して買い出しに行こうっ」 　そう言って、涼子は既に祐二が外出の支度ができているのに気付いた。少しおしゃれなカーデガン、玄関には真新しい靴が出ている。玄関から部屋を覗くと壁にはブレザーが掛けてある。そしてパソコンの低い小さな音が涼子の耳に入ってきた。 

ｍｏｅ： びっくり仰天ですね。ブラウンヘアさんとは同じ市内だと言っていましたが、祐二さんともそんなに離れていなかっただなんて。祐二さんの住まいの駅だと萌の利用している駅寄りなので、そうですね、３０分ちょっとでお互いの駅には行けるんですね。どうしてもっと早くにそういった情報を教えあわなかったんでしょうねぇ。不思議です。でもうれしいな、祐二さんから会いたいなんて誘っていただいたりして。ブラウンヘアさんとの約束が萌の利用している駅前広場なんで、もしよかったらその近所だとうれしいです。午前中が祐二さんはいいんですね。萌もその方が助かります。先約のブラウンヘアさんとのお約束が午後からなので。じゃあ、当日急用等ができた場合は萌のポケットベルに連絡くださいませ。楽しみですね。そうそう、その時に現代の魔女を読んだ感想を聞かせてくださいね。 

「祐二はこれからどこかに出かけるところだったの？」 　涼子の訴えるようなきつい眼差しに、祐二はうっとうしさだけを感じていた。 「ちょっと、そう、涼子へのクリスマスプレゼントを買いにさ」 「そして夕方にプレゼントを小脇に抱えて、私の部屋を訪れるって手筈だったの？」 　祐二は奥の部屋に引き返しながらうなづいた。涼子が玄関を上がり、コートを脱ぐのに手間取っていると、パソコンの低い音が急に聞こえなくなった。 ーパソコンの電源を切ったんだ。 　涼子がいてもかまわずにいつもパソコンはつけっぱなしにしている祐二が今日に限ってパソコンを切った。それも涼子が玄関でコートを脱いでいるあいだに。 「あれっ、パソコンついてたんじゃないの」 　涼子は余熱のあるパソコンを触りながら祐二を見つめた。祐二は涼子を見ようともせずテレビのスイッチを入れる。 
「ねぇ」 
「なんで？今日はまだスイッチすらいれてないぜ。何かみたいソフトでもあるの」 　何食わぬ声色で答える祐二。祐二の視線はベッドサイドにおいてある目覚まし時計をなめた。涼子は祐二の些細なしぐさをも見逃してはいない、今日は絶対に祐二を手放してはいけない、その思いが涼子の視線に緊張感を漂わせていた。何度となく時計を盗み見している祐二、ここは彼のマンションなのに。 　涼子はテレビを見ている振りをしている祐二の隣に腰掛けた。祐二の右腕に甘くすがりつくと、 
「よかった、今年のクリスマスはやっぱり祐二と一緒に過ごせそう」 　頬を祐二の胸によせた。 
「嘘はつかないよ」 
「涼子の事、好き？これでクリスマスの朝まで一緒だよね」 　祐二は何も答えず涼子の頭を両手で抱いた。涼子は祐二に包まれて、彼の心臓の音を聞いていた。 
ーこの音もこれからずっと私のアルバムの中、コレクション。 　涼子を胸に抱いたままね祐二の視線は時計に止まり、時間の計算が祐二の頭の中を駆け巡った。 ーとりあえず、この部屋を出て適当なところで萌のポケットベルを鳴らそう、でも、何て鳴らそうか。 　
　祐二は涼子の唇に自分の唇を重ねた。 

　大通りへ出ると二人は手をつないで歩いた。歩道のポプラ並木のイルミネーションが点灯するには時間が早く、それを補填するかのようにクリスマスソングが通りをにぎあわせていた。陽気なクリスマスの街に包まれ、涼子は祐二が観念したものだと思い、祐二は涼子をひとまず安心させようと一生懸命取り繕っていた。涼子が話す言葉も祐二の耳には半分も届いてはいなかった。それでも涼子は気にしない事にした、取り合えず身柄は押さえた、後はかわゆい彼女を演じれば心に入りこめるだろう、入り込めればすぐにコレクションさ、涼子はありったけの笑顔と甘える言葉使いで祐二を取り囲んだ。祐二はそんな涼子を優しく見つめる事で、どこかで自分の時間を作る事を認めさせようと思いを巡らせていた。萌との約束の時間はすぐそこに迫っている。街頭の時計を見逃さずに歩いていた。 「涼子、クリスマスプレゼントは何がいい？」 　精一杯の笑顔で涼子の信用をより深いものにしようとする祐二。涼子は祐二の耳元でそっと答える。そのしぐさは歩道を道行く他の恋人同士でさえ微笑ましく感じるほどほのぼのとし愛情に満ちあふれていた。涼子は祐二を凌ぐ全身全霊で愛を演じていた。演じている涼子ですらコレクションの対象以上の感情を心のどこかで感じはじめてるほどに。祐二は自分を維持するためのコレクション、涼子は頭の中で復唱した。 「言ったでしょ、ずっとそばにいて。それが私のための最高のプレゼント」 「それじゃ、何にも残んないよ。形のあるものを一つでも贈らせてくれよ」 　祐二はこれをきっかけに涼子と離れるしばしの時間を作ろうと考えていた。しかし、涼子がその程度の事を見逃すはずはない。 ー形あるもの、それはあなたが私のコレクションになることよ。 
「うぅん、いいの」 　
　納得しない祐二に向かって涼子は一言つぶやいた。 
「夜、私を抱いてくれるよね」 　
　祐二は不思議な気持ちでうなずいた。 「そして祐二は私だけのサンタクロースになってくれるんだよね、私に愛を届け続けるサンタクロース」 　微笑ましいな、祐二はふと心からの笑顔を見せた。最近忘れていた祐二の笑顔、すべてを自由に感じさせ、涼子をこれ以上のないほど安心させる祐二の笑顔。涼子からコレクションの思惑を忘れさせるほどの祐二のやさしい表情だった。艶の世界での抵抗力、自分の維持、そればかりが先走っていた。この世界に来て愛というものの存在を知った。でも自分は本当に知っていたのだろうか。生命の維持に日々追われはじめたこの数年間。茶髪の男はずっと側にいてくれた。抵抗力が弱まると唇伝いに闇の匂いを思い出させていれた。男は何のためにそうし続けたのか。涼子には何となく判るような気がした。祐二の笑顔が涼子にそんな感情を起こさせた。その感情は闇の中にいるころは感じた事もなかった。艶の世界での抵抗力がままならなくなってきたここ数年の間に根付いていたような気がした。 
「ねぇ、まずはキスして」 　祐二の顔が白いもやに囲まれる、銀色の雪が舞っている。涼子は一瞬、雲の上に立っているような気がした。 
ー涼子、涼子。 　
　祐二の声が遠くで聞こえた。 

　病院の窓から見える風景は闇に包まれはじめている冷たい空だった。ベッドの中から涼子の目に映るものはそのひんやりとした空が半分、蛍光燈の明かりで見える白い天井が残りの半分、そして街から小さく聞こえてくるクリスマスソング。ベッドサイドの椅子に祐二のジャンパーが掛けられている。ゆっくりとジャンパーを見ていたが頭に浮かぶのは茶髪の男の事だった。今日はまだ姿を現していない。いつもならあの窓ガラスに不敵な笑みを口元に携えて浮かび上がってくるはずなのに。 　涼子は自分の息使いが荒いのに気づいた。体も節々が言う事を聞かない。風邪でもないのに。眼球も熱い。目をつむるといろんな声が聞こえてきた。 ー急患でかつぎ込まれたあの患者さん、 　
　ああ、私の事だ。 ーとっても珍しいみたい。そう、病気の種類とかじゃなくて、体質そのものがね、先生すごく驚いてたもの。 　
　艶の世界の人間に体を診られたんだ。 　涼子は一時も早くここを抜け出さなくては、と思う気持ちとまた、このままでもいいや、と思う気持ちがゆっくりと頭の中で交差していた。それよりも自分が 一人でいる事が不安だった。あいつがガラスに浮かんでこない。祐二が側に付き添っていない。涼子は自分が震えているのすら気づかないでいた。 　また声が聞こえてきた。これは祐二の声だ。涼子は重い体を半分起こした。 ー涼子が倒れたんだ。 
ー大丈夫？ 
ーそれよりよくここが判ったね。時間は、彼との待ち合わせは？ ー大丈夫よ、彼はこれなくなったの。消滅したみたいよ。 
ー消滅、何のこと？ 　きっとメールの友達だ。祐二が心を奪われはじめている女性だ。でもなんで。あの子はあいつのコレクションになるはずよ。えっ、消滅。おかしい。彼女は何？ 一体全体、祐二に何の用があるの、なんでここにいるの？ 
ー何をするんだ。おいっ。 
　涼子の心に悪寒が走った。自分の抵抗力が心許ないのに気づいた。息遣いは前にも増して荒くなっていった。涼子は天井が離れて行くように感じた。祐二っ、涼子は空気の変化を感じた。 

　茶髪の男が震えている。逃げ出す力もなく震えている。闇の世界、涼子の故郷、あいつのすみか、でも、脅えている。男は首を強く横に振っている。抵抗している。涼子の目が男の目と会う。男が全身で伝えようとしている。何を言っているの。涼子は震える男に近づこうとしている。男の唇が動いた。逃げるんだ、涼子にはそう読み取れた。闇の中でそう動いた。涼子は意味が分からなかった、意味などどうでもよかった。あいつをだきしめなくっちゃ、いつもあいつは私の側にいた、そのあいつが震えている、私が暖めてあげなくっちゃ。一歩足を動かした時、男の首が宙に舞った。男の抵抗力が弧を描き闇を染めた。ここにいるのは私だけじゃない、誰かいる、あいつの首をはねた誰かがいる。弧を描いた抵抗力は闇に吸い込まれた。 

「目が覚めましたか」 　雲の切れ間からの月明かりに照らされたその女の子は優しく言った。誰だろう。青白い顔がうれしそうに微笑んでいる、何かを勝ち得たように。 
「祐二さんのメール友達の萌です」 　そうか、この子がそうなんだ。涼子は周りを見渡した、祐二はいない。ベッドの横にある椅子に目をやった。祐二のジャンパーはまだかかっている。涼子が甘えたジャンパーの袖口はだらしなく床についている。もぬけのジャンパー。 「茶髪のあの人も自分の闇で震えるほど抵抗力をなくしていたわ」 　これは夢の続き？あいつは来てくれないの？何で現れないの？ 「あの状態までいって回復は無理よ。頑張ってはいたけどね、残念だったけど残っていた抵抗力は私がいただきました」 　萌は舌を出しながらちょこんと頭を下げた。涼子はまだ状況を飲み込めないでいた。 「まだ判ってないみたいね。無理もないか。あなたもね、回復に値しないのよ」 　涼子は手元の何かを投げつけようと思った。頭はまだ完全には理解の粋に達していないが、とにかくこの子はよくない、生理的に直感した。祐二が戻ってくる前に、祐二に知られちゃいけない、そう確信した、会わせてはいけない。しかし涼子の手は震えて枕すらつかむ事が出なかった。 「その程度ね。ふふ。陽も落ちて冷たい冬の闇、青白い月があなたと私を祝福しているよう。あなたと茶髪の彼との抵抗力を頂いて私はとっても潤うし、祐二さんのおかげでコレクションも増えたわ」 
ーコレクション、祐二。 
「あなた、、、何を」 「しゃべるのが精一杯。どうしようもないほど、抵抗力が低下しているのね。かわいそうに。でも、大丈夫、私のためになるんだからさ」 　涼子はシーツをつかむのが精一杯になっていた。自分でもここまで急激に変化するとは思ってもいなかった。何かできないのか。この女は、茶髪のあいつを自分の抵抗力に加え、そのうえ、祐二を自分のコレクションに変えてしまった。そして次のターゲットは私。 ーこんな小娘に。 　涼子は口惜しかった。祐二を自分のコレクションに加えられずに消滅するのはしょうがない、でもその時はあいつに自分の抵抗力を与えてたかった。あいつが先に消滅するのなら自分が側にいてあげてたかった。それなのにこいつがすべてをだめにした。 「艶の世界のコレクションにだけ頼ってちゃだめなのよ。水があうのは闇の世界の力なんだから」 　涼子の視界から萌の姿が消えた。涼子を今まで以上の悪寒が包んだ。恐怖で硬直した体は言う事を聞かない。 
ー共食いが始まったんだ。 　先程まで差し込んでいた月明かりが雲にじゃまされていた。窓の外も窓の内も見知らぬ闇ですでに覆われていた。 

ｍｏｅ： 昨日はどうしたんですか。ポケベルを呼んでくださいって言ったのに。連絡もなしですか。待ちぼうけのクリスマスイブ。何か連絡できない理由でもあったのですか。萌は寂しいです。好きな人を自分の生命に変えてしまう現代の魔女のコレクション、イブの月明かりと相思相愛がキーワード。彼女さんとうまくいってるんですか。うらやましいな。はは。萌はこれからどうしましょ。 

ｍｏｅ： ごめんなさい。メールのアドレスを間違ったみたいです。変な内容でしたよね。すみません。 

ｍｏｅ： いいんですか、間違いメールがきっかけでお友達って。これも縁ですよね。また、メール送っていいですか。だと、うれしいな。 

　萌のパソコンのテーブルには数え切れないほどのミニチュア人形の男達が立っていた。その中に真新しい人形、祐二の姿もあった。 「私の命、コレクションたち、あれ、祐二さんはジャケットを羽織ってなくて寒そうだね」 　萌は今年のコレクションに話しかけた。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　完 
