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Kobukariishi

Tsutomu Ichikawa

Smashwords Edition


Copyright 2010 Tsutomu Ichikawa


Smashwords Edition, License Notes

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鏡のように空を映すから海は水色に描かれるのだ。海が鉛色なのは、どこまでも灰色な空のせいだと徳市は思った。風は強く吹いていた。休むことなく吹いていた。潮風に吹かれてシャツはしっぽりと生乾きの洗濯物のようだ。汗が乾いていくことなくシャツが体にまとわりつく。北海道とはいえ、暖流に近いこの地は夏は当たり前に暑いのだ。朝方の霧はとうに海風に吹かれて丘を越えていってしまった。晴れれば陽は潮がべったりと付いた肌を焼く。働きはじめてから数日で徳市の顔は焼けて赤くなっていた。親方はそれもじきに黒くなるだろうと、自分の二の腕を見せながら笑った。赤銅色の顔に深いしわが走り、白い歯が優しくほほえんだ。

夜明けとともに昆布採り漁は一斉にはじまる。海辺にうち寄せられた昆布を拾い集めるのは漁師小屋に詰め込まれたアルバイトたちの仕事だ。集められた昆布は干場で拡げられ乾かされる。乾いた昆布を再び集め終えたあとの午後、彼らは旅人の顔を少しだけ取り戻し、海を眺めたり丘を散歩したりして過ごすこともある。そして、何かを思いだしたかのようにぽつりぽつりと荷物をまとめて旅立って行くのだった。徳市はそんな風に多くの仲間を見送りながら、もう数ヶ月もの間をここで過ごしていた。自分でも古株になってしまったと思いはじめていた。

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